グロウ・ガーデン



「むらさき色、ですかね?」
 自分で吐き出した煙草のけむりを目で追ってフジシロは呟く。
「一旦吸った煙は紫には見えねぇよ。どっちにしろ光がほとんどないような状態じゃあな」
 足元に設置した彩石のおかげで、色の識別は出来るようになっているが、あくまで携行用のため能力不足は否めず、全体的に色はくすんで見える。
 なにより実効範囲が狭いので、手を伸ばしたその先は容易に染まった黒に呑まれる。そんな状態では微妙な色など判別できるはずもない。煙が見えるだけマシだ。
「あー、光の屈折の関係でしたっけ」
 つまらなさそうにフジシロはため息と一緒にまた煙を吐き出す。
「昨日今日、吸い始めたわけじゃあるまいし、何を今更」
「まぁ、そうなんですけどね。なんとなく、思いだして。ウォードは吸わないんですよね」
 どこか意外そうな声にウォードは軽く肩をすくめる。
「昔は吸ってたよ」
 止める必要ができたので止め、その後、再開する必要性もなかったので、吸わずにいるだけだ。
「オンナにでもやめろって言われたんですか?」
 あけすけな言葉に苦笑いが漏れる。
「想像に任せる」
「秘密主義だなぁ……! ウォード、何か来ます」
 言葉と同時に煙草の火を指でつまんで消し、彩石を閉じようとしゃがみこんだフジシロの肩を軽くたたく。
「……いや、良い。身内だ」
 フジシロより少し遅れて感じ取れた気配は覚えのあるもので、警戒が必要な相手ではない。
 のんびりとした足取りで彩石のつくる色域に入り込んで来たのは案の定、なじみの顔だった。
「お前は学習しない馬鹿だな」
「なに。開口一番に」
 まだどこか幼さを残した顔立ちにいたずらっぽい小さな笑みを浮かべる。
「一人で出歩くなと何度言ったら覚えるんだ、くそがき。相方はどうした」
 こちらの文句を聞く気がないらしく、フジシロのほうを見てにこりと笑って頭を下げる。
「はじめまして。ウォードの部下でジーと申します」
 無表情が基本だった少年が処世のために会得した笑顔はしばらく見ない間にずいぶん板についたようで、不自然さのかけらもなく、もともと優しげな顔立ちなのと相まって、害のないおだやかな人柄にみえる。
「フジシロです。その若さでウォードの部下って優秀なんですね」
「曰く、学習しない馬鹿が優秀と言っていいものか怪しいですけどね」
 フジシロの賛辞なのか嫌味なのか判別しにくい言葉をジーはさらりと受け流す。
「そんな謙遜しなくても」
「まぁ、ここだけの話ですが、コネです。ボクはウォードの隠し子なので」
 意味ありげにウォードを見た後、ジーは声を潜めてフジシロに伝える。
「マジで?」
 目を見開くフジシロにジーは笑みを返す。
 その頭にウォードは拳骨を落とす。
「俺がそんな下手うつわけないだろうが」
「嘘なんですか? っていうか、どこから」
 フジシロはあっけにとられたように、ウォードとジーを交互に見る。
 妙に抜けているというか、だまされやすいというか。
 というより、ジーが上手いのか。口調、表情によってより本当らしく装う。そして誠実そうな見た目もあって、嘘をつくような人間に見せない。
 実際、ジーの口にした言葉の八割方は真実ではない。
 コネがないわけではないが、ここにいるのは紛れもなく実力あってのことだ。そして、厳密に言えばウォードの部下でもなく、当然、隠し子でもない。ジーという名前も本名ではないのだ。
「ウォードにも体面というものがあるだろうし、そういうことにしといてあげるよ。ねぇ、フジシロさん」
 まだ困惑しているフジシロにもっともらしい駄目押しをした後、ジーはウォードに小さな機具を渡す。
「伝言。『もう少しこまめに報告をしてくれると完璧なんですけどねぇ』だってさ」
「通信機が壊れるのが悪い。欠陥品だろ」
 ウォードは新しい通信機を装着し、かわりに故障した通信機をジーに向けて放る。
「それはボクに言われても。とりあえず、一旦報告あげてくださいね。……さて、用も済んだので帰ります」
 踵を返すジーの襟をウォードは捕まえる。
「お前は人の話を何にも聞いてないな。一人でふらつくんじゃないって言ってんだろうが」
 視界の効かない域外では救援を差し向けるのが困難なため、何か問題が起きた場合に対応するため二人以上で行動することが基本だ。それはジーも良くわかっているはずだ。ウォード自ら、叩き込んだ。
「黙って出てきたから、早く帰らないとまずいんです」
 ジーは顔をしかめて続ける。
「だいたい、ウォードが通信機壊したりしなければ、一人で出歩くような羽目にならなかったんですよ。だから黙認」
「出来るか。示しがつかないだろ」
 いちばん近い彩域まで、順調に行って六時間程度。大した距離ではなく、困難な道程ではないとはいえ、危険は皆無ではない。
「フジシロ、切り上げて帰営するぞ」
「了解」
「ウォード。こちらの都合で中断させることはできない」
 厳しい目で、ウォードを見据えるジーを軽くいなす。
「とりあえず、キリはついてる。外に出て三か月だから頃合だろ」
「そうそう。いい加減、まともな飯と寝床にありつきたいから、助かったよ」
 フジシロの追撃にジーはあきらめたように折れる。
「では、お言葉に甘えます」
 本来であれば、休息を取ってから行動するべきだが、ジーにその余裕はなさそうだと判断したウォードは何も言わず荷袋を担ぐ。
 ウォードもフジシロも現状疲労のたまっている状況でもなく、数時間の道のりなら問題はない。
 フジシロもそれに倣い、手早く荷をまとめ、最後に彩石をしまう。
 わずかばかりとはいえ彩りのあった空間が、闇に戻る。
「じゃ、行きますか」
 すぐ前にいる人影もわからないような漆黒の中を、三人のしずかな足音だけが連なった。


「久しぶりの帰還だー」
 入域審査を通過すると、フジシロは伸びをする。
「それで、この後はどうしますか、ウォード」
「とりあえず解散だな。俺も報告に戻る羽目になりそうだし。五日間の休暇は確保してやれる。あとのことは、そっちの上司次第だ。こっちから連絡入れておくから、指示を仰いでくれ」
「了解」
「フジシロさん、お世話になりました」
 ウォードに敬礼するフジシロにジーは頭を下げる。
「こちらこそ。ウォード、失礼します」
 言い終わるとフジシロはすぐに踵を返し、官棟へ向かう。
「お前は?」
「一般宿。カイルもいるし」
 先ほどまで浮かべていた笑顔を拭い去ったように消したジーは無表情で愛想なく言う。
「どう思った?」
 宿のほうに足を向けたジーに並んでウォードは尋ねる。
「なんでおれに聞くかなぁ」
「そりゃまぁ、一応必要かと思って?」
 含みを持たせて笑うとジーは顔をしかめる。
「悪くないんじゃない? 向上心もあるみたいだし」
「あれを向上心と評するお前の言語能力にちょっと不安を覚える」
 口の端に笑みを浮かべたジーに、今度はウォードが顔をしかめる。
「ヤな言い方するなぁ。上昇志向が強い、に言い換えれば満足? 若いから良いんじゃない? あの人なら、ああいうの掌で転がすようにうまく扱うでしょ」
「若いって言っても、お前よりは年長だぞ」
 わかっていないはずはないが、ウォードは一応伝える。
「そんないくつも変わらないだろ。それにおれは非正規だから別枠。正規に訓練校出て、調査官として域外出てる中では最年少じゃないの?」
 フジシロは確か二十五歳だったはずだ。
 ジーは童顔で若く見えるが二十二歳になる。幼い頃から知っているせいか、いつまでも子供の印象があるが、よく考えれば二人に大した差はない。
「だろうな。とは言っても、長期の調査は今回が初で、今まではごく近距離で短期の調査しかしていなかったはずだ」
「その割には勘が良いし、判断も早い。資質としては十分じゃないか?」
 十代半ばからウォードに随行し域外を巡っていたジーは冷静に断ずる。
「あぁ」
「おれに気付いたの、ウォードより早かった。ウォードはおれに対して警戒心がないから反応遅れたにしても」
「気づいたか」
 その後の行動も的確で、評価に値する。
 ジーは苦笑する。
「あれ、もっと気配を消して近付いたらどうだったんだろうね」
「そしたらさすがに俺が気づく」
「その前提ナシにだよ」
 気配を消しすぎた人間が近づけば、不審すぎるので本能的にウォードは察知する。下手をすると反射で切りつけかねない。ジーもわかっているからこそ、普通に近づいてきたはずだ。
「どうだろうな。まだ、そこまで求めるのは酷かもな」
 圧倒的に経験値が足りない。
「うまく育ってくれりゃいいけどな」
「なに、ウォードは手を引くの?」
「育成は俺の仕事じゃないしな。どうせしばらくは……」
 宿の入室手続きをしていたウォードは手を止め、振り返る。
 つられるように振り返ったジーの腰に小柄な人影がぶつかるように抱き着く。
「……カイル?」
 衝撃に顔をしかめながら、ジーはそれを見下ろす。
「どこ行ってたんだ、ジー。黙って、一人で」
 やせっぽっちの少女が抱きついたままジーを見上げる。
 どうごまかそうかと悩んでいるらしいジーは、しかしそれを表情には出さず小さく笑む。
「ごめん」
「笑ってる。反省してない」
 大きな目が非難するようにジーを見つめる。
 その様子が微笑ましく、ウォードはのどの奥で笑う。
 くつくつと押し殺した声にジーはわかりやすく顔をしかめ、カイルは不審そうにウォードを見つめる。
「こんなとこでじゃれてると、迷惑だから場所変えるぞ」
「ジー、人さらいだ」
 笑みを残した表情のウォードから目をそらし、カイルはジーにこそと囁く。
「人聞き悪いな、お嬢さん」
 少なくとも人目につきやすい宿屋で、幼児ならともかく成長期を終えた人間二人を拐かすほど無謀ではない。
「人相悪いけど、大丈夫だよ。一応、おれの相方だし」
 カイルの手を引きながら、ジーは部屋に向かう。
「ジー、お前も人聞き悪いこと言ってんじゃねぇよ」
 人目につかない場所で立ち止まると、まだ不審そうなカイルにウォードは向き合い、膝をつく。
「初めまして。お目にかかれて光栄です」
 返事は返らず、ジーも口をはさむことなく沈黙が続く。
 適当な頃合を見て顔を上げると、カイルは困ったような表情のまま、ウォードを見つめる。
「どうして」
 不審をよりあらわにした目で見られ、ウォードはかるく笑う。
「統監の部下であれば、隠し子に敬意を払うのは当然かと思いますが」
「隠し子じゃない」
「失礼。隠された子供でしたね」
「子供じゃないっ」
 丁寧な口調を崩さないウォードにカイルはふくれっ面で言い返す。
 引っかかるところが違うと少しおかしい気がしながら、ウォードは付き合う。
「そういうところが子供なんですよ、お嬢さん」
「ジー、この人、すっごく失礼だ!」
 様子を黙って眺めていたジーは、訴えるカイルの頭をなだめるように撫でる。
「統監と仲良い人なんだ。似た者同士、仕方ないだろ」
 ジーも随分子供扱いしているが、それに関しては文句ないようで不服そうにしながらも、怒りを収める。
「その説明で納得されるのは不本意なんだが」
「統監も同じこと言いそうだけどな。まぁ、でも事実だろ」
 ウォードの苦言をあっさりと受け流す。
「お前な」
「仲、良いんだな」
 カイルにじっと見つめられ、ウォードは表情を緩めて、少し屈み視線を合わせる。
「お嬢さんとも仲良くできるとうれしいんだけどな」
「いや。私の方こそ、よろしく、頼む」
 ウォードの申し出に驚いたのか、どこかたどたどしくカイルは応える。
 その横で物言いたげにしているジーに気が付いたが、とりあえず無視しておいた。


「じゃ、カイル。悪いけど部屋に戻ってて」
 とりあえず、ジーのとった部屋に入り、軽く食事をして落ちつくと、ジーは切り出す。
「ヤだ」
「ヤだじゃない。おれは仕事」
 即答に即答で返す。
「だって、またどっか行っちゃう。勝手に」
「行かない」
「信用できない」
「聞き分けろ。子供じゃないといったのは自分だろ」
 淡々とした感情ないジーの声は妙に威圧感があるが、カイルはまだ負けずに言い返す。
「ジーの言葉はあてにならない。昨日だって勝手に、いなくなった」
 これに関してはカイルが正しいだろう。
 ジーは真面目だし不誠実ではないが、必要であれば嘘も厭わない。
 ウォードが口添えしても良いが、統監と同様だと判断されている状態では、信用してもらえる可能性は低そうだ。
 ジーはため息をつき、首から下げた識別タグを外しカイルに渡す。
「これ、預けておくから。それで納得してくれないかな」
 識別タグは唯一の身分証明であり、基本的にこれがなければ色域内外の出入りができない。
「……わかった」
「わかってると思うけどカイルも域外に出たりするなよ。何かあっても追いかけていけないから」
 不承不承うなずくカイルに、ジーは念を押す。
「私はわかってる。わかってないのはジーの方だ」
 ジーの識別タグを首にかけると、カイルは不機嫌に部屋を出ていく。
「懐かれてるな」
「まぁ、ね……どう?」
 疲れたように椅子にもたれたジーの問いにウォードは軽く笑う。
「よくひねくれずに育ってるな」
 育った環境はジーもカイルとさほど変わらなかったはずだが、ジーの方が擦れていた。もっと幼いころから。
「それは個人の資質じゃない? ま、おれの場合、環境以前の問題かもしれないけど」
 ジーは肩をすくめる。
 ウォードも殊更そのことには触れないし、ジーも口にはしないが、預言者ゆえの艱苦があったのは想像に難くない。
 そこまで考えて、ウォードはふと思い出す。
「そういえば、お前はタグもう一枚持ってるだろ」
 普通、認識タグは一人一枚しかない。たとえ再発行したとしても、古いタグは登録を抹消され用をなさない。
 が、ジーにだけはもう一枚のタグがある。
 ジーが統監の庇護下からウォードの下に来る際、元の名のままでは不都合がありジーと名を変えた。
 改名した場合、当然元来の名が刻まれたタグは破棄される。
 だが、ジーの場合はいずれその名に戻る必要もあった為、特別措置、秘密裏にタグは残され、ジーとともに行動していたウォードが預かっていた。
 その後、独り立ちの時に統監を経由してジーの手許に返されているはずだ。
「カイルがいるんだ。さすがに動きが取れなくなるような状態にはしないよ。使いたくはないけどね」
 ジーは明言しないものの、あっさりと認める。
「不測の事態というのは、起こるからな」
「まぁ、今回はおれが動けなくてもウォードがいるから安心だけどね」
 ジーは笑みを浮かべて嘯く。
「言ってろ」
 実際そうなったら、動かずにいることなどできないはずだ。
 義務感だけでなく、大事にしているのは見ていてわかった。
 あいまいに笑って反論しないジーと、今後の予定を簡単に打ち合わせる。
「了解。統監への報告は頼んでも?」
「どっちにしろ、連絡入れないとまずいからな」
 連絡を放置していたせいで、ジーが来る羽目になったのだ。ここでまた延ばしたら、本格的に報復が怖い。
「じゃ、おれは仮眠に入る」
 あくびをかみ殺しながらジーは立ち上がる。
「お嬢さんに一声かけてから戻れよ」
 認識タグが手元にないジーが、どこかに行ってしまうはずがないと頭でわかってはいても、長く姿を見なければ、やはり不安になるだろう。
「わかってる……ウォード、別におれに義理だてしなくてもいいよ。おれはもう『ジー』の方が長いんだし」
「義理立てってわけじゃ、ないんだがな」
 ウォードが奪った、ジー本来の名前をジーではない少女に呼ぶことに少しの違和感があるだけだ。
「カイルに戻りたいわけじゃないし」
 それでも戻ることは決めているのだろう。
 生真面目に、背負ったものを捨てることもできず。
 何も言わないウォードにジーは微苦笑を残して部屋を出る。
 ウォードは壁に掛けられた時計に目をやり、少しだけ迷ってから、通信機を操作する。
 数回の呼び出しの後、直通の回線がつながる。
「早々に連絡いただけて助かりますね」
 やわらかな声。だが、嫌味が多分に含まれている。
「申し訳ありません。不測の事態で。準備が足りませんでした」
「……こんな時間にかけてきておいて、思ってもいない謝罪をもらってもね」
 統監の口調が呆れたものになる。
「お前が嫌味ったらしいからだろ。とりあえず、ジーたちと合流した。今はサザの宿。一両日中に、こっちを出てラボに寄ってから戻る」
「成果は?」
「調査の方はぼちぼち。とった試料はラボに預けていく。人員の方は微妙。良くも悪くもまだ若い。様子見だな。その他諸々、公的な報告書はあとで出す」
 ウォードは私見をさっくりと告げる。
 細かいことを話していたら時間がいくらあっても足りない。ウォードはともかく、統監は多忙で、それが分かっているからこそ、公務に入る前の、まだ寝ていてもおかしくない早朝に連絡を入れている。
「カイルに会いましたか?」
 以前にも同じことを聞かれた。名は同じでも対象は別だったが。
 それを思い出してウォードは小さく笑う。
「ジーとはだいぶ違うな。感情表現が素直だ。お前の側にいてああいう風にまっとうに育つってどんな奇跡だ?」
「細々とした面倒を僕が見てるわけじゃないですから」
 ウォードの揶揄かいを、統監はあっさりと受け流す。
「ジーの方は着々とお前に似てきてるけどな」
「僕はキミに似てきているような気がしますが」
「最悪じゃねぇか」
 思い切り顔をしかめる。
 統監の性質の悪さはもちろん承知しているが、ウォード自身も決して褒められた性格ではない。それを併せ持つとは、不憫すぎる。
 統監は声を立てて笑う。
「まぁ、アレの場合は表面上のもので、根本的な部分は相変わらずですから、そう嘆かなくても」
 統監に慰められると、より暗澹とした気持ちになるのは気のせいか。
「成長してると喜ぶべきか」
 ウォードは自分を納得させるように、ため息をつく。
「まだ足りませんけどね」
「さっさと一人前になってくれれば、隠居できるんだがな」
「大丈夫ですよ。キミみたいに便利な人、そうそう簡単に隠居させませんから」
 にこやかな声に、ウォードはがっくりと肩を落とす。
「何が大丈夫なんだよ」
「人生に張りがないと、老化が早まりますから。キミ、当分若くいられます。僕のおかげですね」
「お前のせいで、俺は苦労するばっかりだ」
 学生のころから、面倒迷惑で振り回される役回りはウォードに定着している。
「飽きないでしょう? それに若いうちの苦労は成長のために必須ですから。そう考えるとキミが立派に育ったのも僕のおかげですね」
 統監の愉しそうな声にウォードは反論を諦める。何を言っても無駄だ。
「すべて統監様のおかげだよ。じゃあな」
「ええ。二人のこと、頼みますね」
 ウォードの返事を待たずに統監は通信を切る。
「了解」
 届かない言葉を一応声にだして、ウォードは目を閉じた。

【終】




Aug. 2013
関連→モノクローム・ガーデン
ゼラ・ガーデン