YOU ARE



「……なんだよ、これ」
 広げて渡された週刊誌の見出しにがっくりと肩を落とす。
 【人気ユニット“ACS”と“たりらり”ほのぼのWデート】
「さて、どっからつっこむ?」
 くたびれた風の相棒に、そういう問題か? という目線を送りつつ、リクエストに答えてみる。
「全部だろ全部。人気ユニットっていうのがおれらにかかってんのか“たりらり”にもかかってんのかもわかんねーし、おれらのキャラ的にほのぼのはありえねーし、Wデートって、何ソレ、未だに生きてんのそのコトバ? ……つーか、この写真、うまくスタッフのけて写してんな、さすがプロ?」
 写真は“たりらり”のふたりと向かい合って焼肉をつつく“ACS”であるおれたち二人が切り取られていて、確かにそれだけ見ればWデートに見えなくもない、かもしれない。
 が、実際のところ他にもマネージャー他、事務所の人間が何人もいてイロケのかけらもない単なるお食事だ。
「元気だねぇ、お前」
 一息で言うと感心半分あきれ半分の言葉が返ってくる。
「甲利が言えっていったんだろーが。どーすんだよ、これ」
 “たりらり”は癒し系というか脱力系の高校生の女の子二人組で、事務所が同じとはいえ、マトモに顔を合わせたのはこの写真を撮られた日が初めてだ。
 “ACS”としての最低限のイメージを保つため無口キャラを通していたし、女の子二人はこちらが居ようと居まいと関係なく楽しそうにしてたし、どちらかというとたまたま相席しただけ、の雰囲気があった。にも関わらず写真では見出しのとおりに見えるところがなんとも。“ACS”がほぼうしろ姿から写されているのに対して、楽しげな“たりらり”のふたりの表情がばっちりとらえられているのが原因だろうけれど。
「これってさぁ、“たりらり”的にはどーなんだろうな、売り戦略としては」
 シングル二枚目が出たところ。大ヒットとまではいかなくてもそれなりの順位に食い込んでいる状況で、ここからが勝負どころだろう。
「さぁ? 大幅マイナスってことはないんじゃないか? 言い訳、っていってもこの場合は事実だが、言いようはいくらでもあるし……ACSは路線変えるか?」
 甲利は苦笑いする。
 まったくだ。記事中を斜め読みすると、初々しいとか微笑ましいという単語が入っていてかるく凹む。こちらのイメージも考えて言葉を選んで欲しい。この記事のせいで売り上げ落ちたら損害賠償……きかないだろうな、当然。
「椎一、他人の心配できるなんて余裕だな」
 苦笑がからかいを含んだものに変わる。
「どうしようね。見てないことを祈るとか、どうかな?」
 あえて考えないようにしてきたことを突きつけてくれる相棒にナサケナイ笑みで問う。
「まぁ、祈るのは自由だ。キリちゃんはこういう雑誌、あんまり見ないだろうしさ」
「甲利こそどうするんだよ、椎加は見てるぞ、きっと」
 椎一の姉であり、甲利の彼女である椎加は確実に嬉々として記事を突きつけるに違いない。その内容が嘘だとわかっていても。
「何を好きこのんであんなのと付き合うのかねぇ、趣味悪ぃ」
「世の中、ままならないものに支配されてるんだよ。……だいたい、椎加が見てるならキリちゃんも見てるだろ。あの二人、仲良いんだし。椎加がリークしないはずないだろ」
 さすがに伊達に付き合っていないな。
「やるな、アイツなら。間違いなく」
 ホンキで頭を抱えたくなる。
「で、どうするんだよ」
「……オマエこそ」
 深々としたため息が重なる。
「帰るか」
 しかたなく肯いて立ち上がった。


「おかえり」
 そぉっとドアを上げるといつも通りの顔と口調。
 見られてない? なら、あとは椎加からの接触をブロックすればバレずに済む。
「なに?」
 眉根を寄せてキリはいやそうに言う。
「いや、わざわざ玄関までお出迎えしてもらえるなんて感無量で」
「ばか?」
 わかってます。たまたま玄関近くに居ただけで出迎えてくれたわけじゃないってことくらい。ちょっと言ってみたかっただけじゃないか。
「キリ、ゴハンある?」
「あるよ……あのさ、べったりくっつかれるとジャマな上、暑いんだけど」
 背後から抱きつくと苦い声が返る。つめたいなぁ。
「ただいまのキスはー?」
「ゴハン、食べたくないんだ?」
 更に冷ややかな表情がふりかえる。だから冗談だって。
「ゴメンナサイ」
 離れて、手を小さくあげてあやまる。
「今、用意するよ」
 苦笑まじりのやさしい笑顔。こういうところ、すごくかわいくて好きなんだけどなぁ。なんて口にしたら怒るから言わないけれど。まぁ、そういう照れ屋なところもかわいいんだけど。
「案ずるより生むが易しー」
 とりあえずバレていないことにほっとして、小さく弾んだ声を出す。
 怪訝そうに振り返ったキリになんでもないと小さく手を振った。


「あのさ、キリさん?」
 食べ終わった食器を片付けている背中に声をかける。
「んー? お風呂なら沸いてるよ」
「ファックス、来てるの見た?」
 ファックスの横に無造作に置いてある用紙一枚。実際のところ排出トレイからは少し離れてたところにあったから聞くまでもない。
「椎加さんからの? 見たよ」
 いつもと変わらない平静な声。
「あーのーさー」
「明日も早いんじゃないの? さっさとお風呂は言って寝たら? だからくっついたらジャマって」
 言いながらも泡立ったスポンジで皿をこすっている手はよどみなく動いている。
「キリはさぁ、あのファックス見て、おれに言うことは何もないワケ? 一言も?」
 見られたくないと思っていた記事のコピーがまるっと送られてきていた。送信者は姉、というよりもう軽く敵。
 キリはキリでそれを見て無言っていうのもどうなんだ。
「何を言って欲しいの?」
 皿をすすいで水切り籠に入れる動作を繰り返しながら、めんどくさいなぁというのがまるわかりの声。
 何って。
「あの記事をまるごと信じて、『どういうことなの?!』って、椎一を詰れば満足なの?」
 水を止めて、ため息をつく。
「それとも『こんな人ともう一緒に暮らせない。実家に帰らせてもらいます』って書置きひとつ残して家を出て行くのが正解?」
 静かな微笑み……怖い。
「ぇえと……ごめんなさい」
「なにが?」
 キリに抱きついていた両手をはなしてそのまま小さく手を上げる。降参です。
「キリが見ないといいなぁと思ってたのに、見てもなにも言わないのをみたら、少しは嫉妬してくれても良いんじゃねぇの? キリってば、やっぱりおれのことなんて好きでもなんでもないんじゃないの? と思って拗ねてました。ホントにゴメンナサイ」
 手を会わせて謝るとにっこりとした笑顔が返る。
 こういう場合の笑顔は怖いんだって、だから。まだ、怒ってますね?
「良くわかった。椎一はまったく私のことを信用してないってことは」
「そういう問題じゃない。ただ、好きなんだって」
 言うとキリの視線がそっぽを向く。
「そういう言葉を免罪符みたいに使われるのイヤなんだけど」
 おこったような口調。ホンキで怒ってはいない。
「うん。知ってる」
 うなずく表情がゆるむ。
「ちなみに、あの記事信じなかった、っていうのと腹がたたなかったとイコールにはならないからね?」
 いつもの淡々とした声で、そんなことを言う。
 そういうところがね。だからさ。
「好きだよ」
 耳元でささやくとあきれたような視線。
「馬鹿じゃないの?」
 いつもどおりで、どこかやさしく聞こえた言葉に、たまにはあんな記事がでてもいいかもと現金なことを考えた。

【終】




Aug. 2007
関連→ONLY MINE