つきとばく



 ばくは、おもっていました。
 さみしいと。

 ばくはさみしさを忘れるために、こどものゆめを食べました。
 こどもたちが、夜ねむりについてから、朝おきるまで。
 ばくは、こどものゆめがだいすきでした。

 月がそれを見ていました。
 月はこどものゆめを見るのがだいすきでした。
 月は夜の空にひとりでさみしくても、こどものゆめを見れば元気になれました。
 でも、ばくがゆめをぜんぶ食べてしまうので、 ずっとさみしいままになってしまいました。

 ある日、ばくがこどものところに行こうとすると、 声がふってきました。
 ばくが空をみあげると、そこには月がかかっていました。
「なにか用?」
 ばくがたずねます。
「おねがいがあるの」
 月は言います。
「ゆめを食べるのを、へらしてくれませんか」
「いやだよ。おなかすいちゃうと、さみしくなるから」
 ばくは、ゆめを食べに行ってしまいました。
 月はかんがえました。

 つぎの日。
 また月はばくに声をかけました。
 ばくは月を見あげました。
「なぁに?」
「かんがえたの」
 月は言います。
「ばくさんはこわいゆめとか、かなしいゆめを食べるの。わたしはたのしいゆめを見るの」
「それだけじゃたりないよ」
「そのあとはいっしょにお話しましょう!」
「なんで?」
 たのしそうな月にばくは聞きます。
「そうすればさみしくないよ、きっと。ひとりじゃないから。 おともだちになりましょう! ……いや、かな?」
 月がちょっとかなしそうにたずねます。
 ばくはわらいました。
「うれしいよ」

 ばくは、わるいゆめを食べました。
 月とこどもたちはいいゆめだけを見ました。
 月とばくはたくさん話しました。
 月はおもいました。
 ふたりだからさみしくないと。

【終】




Jun. 2000
おまけ。月賭博と読んでしまったあなたへ。→月賭博