『そこでAさんとB子さんは運命的な出会いを果しました』
 テレビから流れる言葉。
 雑誌を見ていた友人は何が引っかかったのかふと顔をテレビのほうに向ける。
「どーしたよ」
 他にろくな番組もやっていないので観るともなしに観ていた津示は友人に怪訝な視線を向ける。
 ぱっと見、温厚そうな友人はくすくす声を立てて笑う。
「いや。運命的な出会いなんて言ってるからさ」
「なるほど。至岐はそれが馬鹿馬鹿しいと」
 自分も『運命』なんてものを信じるような可愛らしい性格ではないので軽く同意して見せると至岐は穏やかに笑って否定の語をはく。
「そうじゃないよ。バカにしてはいない、全然」
「じゃあ、何」
 テレビはAさんとB子さんの馴れ初めの再現ドラマを延々とやっている。
「運命的、じゃない出会いなんてないんじゃないかと思ってるだけ」
 ちょっと意外な言葉、かも知れない。
「至岐がそういうの信じるタイプだとは思わなかった」
 付合い始めて数年になるが。
 見た目に反して割と冷めた考え方をする、と理解していたつもりだった。
「『運命』っていうのは信じないケドね。でも人と人が出会うってのは不思議じゃないか」
 至岐はやわらかな笑みを浮かべて津示を見つめた。
「『運命的』で?」
 言葉遊びをしている気分になる。
「例えばさ、津示とだって一つ選択違ってれば会えなかったんだし?」
 出会ったのは高校の入学式。
 どちらか片方でも入試に不合格だったりとかしていたら出会えなかっただろう。
 家も近所じゃない。
 不思議と一緒にいて楽だけれど、性格は正反対に近い。
 共通の趣味も特にない。
 接点は確かに同じ高校になったってコトだけ。
「ほら。運命的」
 しっかり顔に出ていたらしい。
「うーん」
「気に入らないみたいだね、津示は」
 別段、気にした風もなく至岐はテレビに目をやる。
「気に入らなくはないけど、さぁ」
 なんとなく。
「そうばっかりじゃないけどね。実際。親兄弟は選べないし。ま、それは『運命』」
 軽く言う至岐を眉をひそめて見る。
「自分の選択がきかないコトが『運命』で選択した結果の出会いが『運命的』……?」
 まとめようと話していて、余計に意味不明になる。
 至岐は声を押し殺して笑う。
 やな奴だ。
「そんな面倒に考えなくても。コトは簡単」
 にこにこ笑ってバカにしてるのと違うだろうな?
 目で訴えると小さい弟妹をあやすかのように至岐は頭をたたいてくる。
「だから結果だよ。会えて良かったってコトでしょう」
 まぁ、ね。

【終】




Jan. 2000