そこに、ある。



 年の瀬。
 毎年、代わり映えのしない年末の番組。
 こたつでごろごろ。
 反対側には頬杖をついたカノジョ。
 その前にはみかんの皮。
「何か、まったりしすぎよね」
 時計を眺めつつカノジョは言う。
「まったり、なにより。年越しそばが食べたいのなら戸棚にカップのがあるぞ」
「いや、おなかはもう一杯だから良いんだけどさぁ……テレビも、飽きたしさぁ」
 またしても時計を見て、溜息。
 つられて時計を見上げる。
 十一時四十五分。
 そろそろ、眠いかもな。
 日頃の習慣とは怖い。
 朝起きる時間は遅くても、眠くなるのは大体この時間だ。
「寝る?」
「じゃなくて、さぁ」
 だよな。
 おれと違って、夜は強いはずだ。
「じゃ、なにぃ」
 ぐいーっと伸びて仰向く。
 こたつがゆれる。
「初詣、行かないの?」
 二年参りってヤツですか。
 不満げなカノジョにおれは欠伸まじりに応える。
「おれ、一回も行ったことないよ」
 起きあがってみかんを手にする。
「何でぇっ?」
 意外そうに、勢い込んでカノジョは尋ねる。
 そりゃ、毎年行ってるような人から見れば信じられないかもなぁ。
「ほら、おれキリスト教徒だし?」
 みかんの皮をむきつつ、ちらりとカノジョの表情を見る。
 不信満面。
「ハルくんがキリスト教徒なんて初耳ぃ」
 そりゃまぁ、そうだろうねぇ。ウソだし。
 もそもそ、みかんを口に運ぶ。
「ってさぁ、単にものぐさなだけでしょぉ、ハルくんはさぁ。意味不明に妙な理由でっち上げないでよねー」
 ヒトのむいたみかんを横取りし口に放り込む。
 ご立腹?
「だってさぁ、この寒いのに外出たくないよ? 大体、わざわざ人混みの中に行ってどーするよ。信心の欠片もないのに」
 新たなみかんをむきにかかり本音を漏らす。
「つっまんないなぁ」
「大体ね、お参りに行って何があるって言うの」
「それは今年……まだ来年か。無事過ごせるよーにってさぁ。シアワセでいたいでしょ?」
 指を組んでずいっと身を乗り出す。
 何やら、駅とかに良くいる宗教の勧誘のヒトみたいだな。
 思わず苦笑してしまう。
「違うって。あれは『去年も無事過ごせました。ありがとうございました』って行くものなの。本当は。一年の計は元旦に有りって言うでしょうが」
「信心ないわりにはくわしーのね」
「ウソでまかせだから」
 とは言わずに軽く笑みを浮かべる。
 あの口調からするとそんなのはばれてるか。
「おれは日々感謝の気持ちで生きてるから、行かなくてもいーのさ」
 心の底から信じてない表情が白々とこちらを向く。
 このままでは年越し冷戦になりかねないな。
 拗ねだすと、長いんだから。
 関係改善のために言葉を連ねる。
「それにさぁ、おれはあったかぁい部屋にミサトと一緒にいられるだけで極上にシアワセなんですけどね」
 ふくれていたほほがゆるむ。
「……ずっるくない? それって。それ以上文句言えないじゃん?」
 テレビからは除夜の鐘。
「何なら年越しちゅうでもする?」
 小さい子をあやすようにあたまをたたいて。
 カノジョは吹き出す。
「ばかじゃんっ」
 くすくす、声を立てて笑って。
 二人して。
 また一年。
 笑っていて。
 きっと、シアワセが降ってくる。

【終】




Dec. 2001