日々燦々月皓々



 ◎ ◎ ◎

「葉月と架月くんって二卵性なんだよね?」
 この春、初めて同じクラスになって話すようになった友人の言葉に首をかしげつつ答える。
「そうだよ。だってそもそも男女だし」
 架月は双子の兄だ。そして片割れの私は妹なわけで、一卵性双生児たりえない。
 双子が身近にいなくて知らないとか?
「だよねぇ。それにしてはそっくりだと思って、二人」
 茉莉ちゃんの言いたいことはよくわかる。
 二卵性で、そもそも男女という差があるにもかかわらず私たちの外見はそっくりだ。
 幼い頃は特に気にならなかったけれど、高校二年生になった今、男女でここまでそっくりなのはどうなのよと自分でも思っている。
「ほんとにね、身長も同じだし。男女でそのあたりは差ができそうなものなのに」
 なにを隠そう体重も同じだ。
「髪型も同じだし、わざわざ似せてる部分もあるでしょ」
 茉莉ちゃんのあきれた口調に心外だと首を横に振る。
「だって架月が真似してくるんだよ」
 中学生の頃、髪を伸ばしていたら架月も同じように伸ばしだした。
 うちの中学、ふつうに男子の長髪禁止だったのにだ。
 しかし架月は校則よりも私と同じにする方を優先する。
 生活指導に呼び出されようが、親召喚されようが切らない。
 両親が余計な心労でくたびれていくのを見るのも忍びなく、私が伸ばすのをあきらめて切った。架月も即座に切った。
 それ以来、私はずっとショートだし、架月も同じ髪型だ。
「シスコンの一言で済ませていいかわからなくなるね、それ」
 ちょっと結構引いてるでしょ、茉莉ちゃん。
 大丈夫、私もだ。
「架月が何考えてるかさっぱりだよ」
 見た目はそっくり同じでも、性格や頭の出来は全く違うしね。
「僕は単に葉月が一番なだけだよ」
 こいつは嫌がらせなのかな。
 気配なく急に現れたから茉莉ちゃん、びっくりしてるじゃないか。
 そして言ってることも最悪なんだけど。
 知ってる、いつも言ってるから私は慣れてる。でも家以外でそういうことを口に出すな、妙な誤解を招くでしょうが。
 ほらぁ、茉莉ちゃんもなんか私と架月の顔を見比べてる。
 不審者を見る目じゃない?
「葉月、帰ろ」
 架月、空気を読め!
 ……妹はアレな兄のフォローはどうでも良いけど、せめて自分はまともだということは伝えたいので茉莉ちゃんと帰りますよ!


 ◇ ◇ ◇

「おかえり。葉月は?」
「ふられた。友達と帰ると」
 ダイニングテーブルで仕事をしていた母はここでようやく顔を上げた。
 そしてこちらを見て少し困った顔で笑みを浮かべる。
「しょげた顔して。まったく。もう少し妹離れしなさいな」
「…………」
「無理か。生まれる前から葉月にべったりだったものね、架月は」
 生まれる前、つまり母の腹にいる時、母はもちろん医者も双子だとは思っていなかったそうだ。
 いるのは女の子ただ一人。
 そんな中、生まれてきたら双子だったから大騒ぎだった。
 葉月の陰に隠れていて見えなかったのだろうと少々無理のありそうな理由をつけて納得することにしたようだ。
 まぁ、そんなわけあるはずもない。
 葉月は本来一人で生まれてくるはずだった。
 そこに無理やり入り込んだのだ、僕が。
 一番近くで、誰よりもそばにいられるように望んで、それは叶えられた。
「まぁ、でもお友達との仲を邪魔しないようになっただけ成長したわよね、架月も。えらいえらい」
 母は幼子にするように頭をなでてくる。
 その手が心地よくて目を閉じる。
 本来、このようにいつくしんでもらえるような存在ではないのだ、僕は。
 無理やり家族の中に入り込んだ異物だという自覚はある。
 それでも赤子の頃から育ててもらっていれば絶対的な信頼感というものも沸いてしまうのだ。
「本当は目を離したくないんだけど、葉月に嫌われたくない」
 出来ることなら片時もそばを離れず、何物からも守り抜きたい。傷ひとつつけないよう、大切に。
 その為に生まれて来たのに、ままならない。
「その自覚があるなら、まぁ大丈夫でしょ。架月が過保護なのは葉月も理解してるし。思ってもちょっと面倒だな、くらいよ」
 それは思われているだろう。
 逆の立場だったら自分も鬱陶しい感じるに違いない。
 それでも止めないのは記憶が残っているからだ。
 ずっと古い記憶。
 この平和な日本という国ではなく、おそらく地球というこの星でさえもない場所に僕たちは生きていた。
 今、この現代ではその力の片鱗も、面影も残ってはいないけれど、『葉月』は聖女だった。
 ひとの病・怪我だけでなく、枯れた土地をもたちどころに癒すこともできる唯一無二の大聖女。
 僕はそんな彼女に従い、守護する聖霊だった。
 そう、陰に日向に彼女を支え護らなければいけなかった。
 しかし彼女は優秀で、優秀過ぎたが故に僕の助けなど必要とすることなく、そして僕は油断した。
 彼女を自分のものにしようと狙うものは多く、また彼女の存在を邪魔に思うものも多かったのに。
 稀代の聖女であった彼女は、陥れられあっけなく命を落とした。
 本来なら僕もその場で消失するはずだった。
 聖女と聖霊の力は深く結びついたものだから。
 しかし彼女は最期の力で僕を切り離し、残した。
 さすが慈悲深き大聖女。僕はそんなこと少しも望んでいなかったのに。
 あなたのそばにいることが僕の使命で、幸せだったのに、置いていかれてしまった。
 一人になった僕は彼女の大事にした地の荒廃をすこしでも食い止めるべく聖霊の力をふるった。
 これは贖罪だった。
 力を使い果たせばそれだけ早く消滅できるという打算もあった。
 彼女がいなければ存在する意味も価値も何もなかった。
 だから願った。
 力を使い切る寸前に、大気にとけきる前に。
 もう一度、彼女の傍に寄り添わせてもらえるようにと。
 こんどこそ守り切るから。
 そして願いは聞き届けられた。


 生まれる直前の葉月のもとへ導かれた僕は、姿を葉月に模して同時に生まれ落ちることが叶った。
 双子の兄妹として。
 似た容貌で傍にいれば身代わりもできるだろうと考えてのことだったけれど。
 この世界の葉月は聖女ではないごく平凡な人間で、僕は前世の記憶はあるけれど、特別な力もない普通の人間のようなものだ。
 そして生まれ落ちたこの国も、それなりに安定した落ち着いた場所で、僕たちはすくすくと幸せに成長している。
 事故や災害や病気と心配は尽きないけれど。命を狙われることもない穏やかな日々。
「葉月、遅い。暗くなる前に帰ってきなよ」
「あのね、暗くなる前って小学生じゃないんだからね? まだ七時だからね?」
 僕と同じ顔の僕の一番大事な人が、うんざりとため息をつく。
 顔を見合わせ、言葉を交わせる幸せを僕はかみしめた。

【終】




May. 2025